双極性障害

双極性障害は、かつては躁うつ病と呼ばれていました。気分が躁とうつ、二つの極端な状態にぶれるので「双極性」と呼ばれています。
「双極性障害」では誰にでもあるような気分の浮き沈みを越えて、自分ではコントロールできないほどの激しい気分高揚と衝動性亢進、苦しくて生きているのがつらいほどのうつ状態を繰り返す病気です。現在の気分は直前の気分が反映することが多く、「山高ければ谷深し」などと言われます。

双極性障害患者さんの多くは単なるうつ病と誤解されることがあります。
ほとんどの場合、受診するときにはうつ状態なので、双極性障害と診断するには以前に躁状態や軽躁状態があったかを確認する必要があります。
双極性障害では「躁・うつの波をどうやってコントロールするか」が最大の治療目標になります。うつ病とは治療目標も使う薬も異なります。

双極性障害の経過

双極性障害は患者さん自身が軽躁エピソードに気が付かず「これが普通の状態」と思ってしまいます。また、受診するのはうつ状態の時だけなので診断を誤るケースがあります。双極性障害は、放置すると躁状態とうつ状態を何度も繰り返す病気です。いったん病相が治ったからと、そこで治療をやめてしまうと、再発してしまい、これをくりかえすと脳を含めた身体へのダメージ、失職など社会的なダメージが大きくなります。心理教育を含めて、長期にわたる再発予防が重要となります。

ご家族に躁うつ病の方がいたり、抗うつ剤によって元気になりすぎたことがある場合には、この病気の可能性があります。そのほか、25歳以下の若年発症、寝すぎてしまう過眠症状や過食行動(非定型うつ病の特徴)、産後の発症、抗うつ薬が効きにくい、3回以上うつ病エピソードを繰り返しているなどの特徴があると、双極性感情障害の可能性が高いことが知られています。
双極性感情障害の人を抗うつ薬だけで治療した場合、衝動性のコントロールが出来なくなり、手首をきったり・物に当たったり・身近な人を攻撃することが多くみられます。
治療前より状況が悪化しているにもかかわらず、さらに抗うつ剤が増量され、抗不安薬の併用により衝動のコントロールが困難となり、入院せざるを得なくなるようなケースもあります。自殺率も単極うつ病(純粋なうつだけのうつ病)よりも高く、注意が必要です。

双極性障害の治療

治療の目的は、躁状態やうつ状態から回復し、再発を予防することにあります。
この病気は再発を繰り返すたびに次の再発までの期間が短くなり、悪化しやすくなりますから、最も重要なのは再発を予防することです。

1.薬物療法

双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効です。日本で用いられている気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリジンなどがあります。
その他に、非定型抗精神病薬であるクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールなども有効であるとわかっています。
このうち最も基本的な薬はリチウムです。リチウムには躁状態とうつ状態を改善する効果、躁状態・うつ状態を予防する効果、自殺を予防する効果があります。
しかしリチウムは副作用が強く、血中濃度を測りながら使う必要があります。リチウムの副作用として、特に飲み始めに下痢、食欲不振、のどが渇いて多尿になることがあり、また手の震えは、有効濃度で服用していても長期に続く場合があります。血中濃度が高くなり過ぎると、ふらふらして歩けなくなり、意識がもうろうとするなど、中毒症状が出る場合があります。甲状腺の機能が低下する場合もありますが、これは甲状腺ホルモン剤を合わせて飲むことで対処できます。体調が変化した時(食事や飲水ができないことが続いた時、腎臓の病気にかかった時など)には、急激に血中濃度が高くなり、中毒症状の出る場合があります。また、他の薬(高血圧の薬など)との組み合わせによって、リチウムの血中濃度が急に高まり、中毒が起きることがあるため、飲み合わせに問題がないか、薬剤師に確認してもらうことも重要です。
またうつ状態の時には、抗うつ薬が処方される場合もありますが、抗うつ薬の種類によっては、情動が不安定になることがあり、特に古くからある三環系抗うつ薬は、躁状態を引き起こすことがあります。双極性障害の方では、そのほかの抗うつ薬でもアクティベーションシンドロームと呼ばれる、非常に焦燥感が強い状態が起きやすいことが知られています。うつ状態で受診した際に、過去に躁状態や軽躁状態があったかもしれないと思う人は、必ず医師に伝えてください。特に「抗うつ薬を飲んでイライラしたり、症状が悪化した」という人は、医師に報告し、相談してください。
双極性障害の治療薬は限られています。「副作用が出たから、この薬は合わない」とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、これをみすみす失っていることになります。薬には副作用があることを前提として、医師と相談しながら、「自分の病気のコントロールのために、どのように副作用に対処しながら治療していこうか」という姿勢で臨むことが大切です。

2.(修正型)電気痙攣療法

希死念慮が強い時、混迷状態(話もできず、食べ物も全く食べられないような状態)、妄想が強い時などには抗うつ薬よりも有効性が高く、即効性があるとされています。入院した上で、麻酔科の設備をもつ病院で行われています。

3.心理社会的治療

(1)心理教育
患者さん自らが疾患について学習し正しく理解することで、病気を受け入れコントロールできるようになることが目的です。
そのため、心理教育は発症の初期に大変重要です。病気の性質や薬の作用と副作用を理解し、再発のしるしは何なのかを自分自身で把握することをめざします。再発した時に、最初に出る症状(初期徴候)を確認し、本人と家族で共有することが大事です。再発のきっかけになりやすいストレスを事前に予測し、それに対する対処法などを学ぶことも有効です。
また、飲酒を避け、規則正しい生活をおくることも、双極性障害の治療には大きな効果があります。飲酒は気分の波を大きくし、衝動性を亢進させます。徹夜を避け、朝はしっかり日の光を浴び、散歩などの軽い運動をする、というように、できる限り一定のスケジュールで生活することは、状態の安定化にとても大切です。

(2)認知行動療法
うつ状態では物事の考え方が否定的になり、些細なことでも自分を責めてしまいます。自分の考え方の癖を知り、「○○ができなかった」ではなく、「△△はできた」と物事の見方を変え、肯定的に捉える練習をすることで、うつ状態を乗り切るための考え方を身につけるのが目的です。当院のリワークプログラムの中でも実施しています。

(3)対人関係・社会リズム療法
双極性障害では社会(生活)リズムの乱れが症状の悪化の誘因となることが知られています。対人関係・社会リズム療法は、対人関係から生じるストレスやこの病気にかかってしまったことに対するストレスを軽減させる対人関係療法と、社会生活のリズムを規則正しく整えることを目的とする社会リズム療法を組み合わせたものです。
対人関係療法は、現在の対人関係の問題(ストレス)を解決し、家族や職場・学校の仲間、友人などとの良好な人間関係を回復させ、再発を防ぐために行います。よい対人関係ができると、周囲の人たちに病気を受け入れてもらうことができ、サポートを受けることができますから、治療の動機づけと症状の改善につながります。
社会リズム療法では、起床や出勤、夕食などの時間や他人から受けた刺激の度合い、イベントなどを記録することで、自分の生活リズムがどのようなものか、どんな場合に自分の社会リズムが不規則になりやすいかを理解し、修正できるようになります。生活のリズムがわかるような、ご自分の生活に合わせた活動記録表を作ってみることをおすすめします。

(4)家族療法
双極性障害に対する家族の理解を深め、患者さんと家族が協力して病気に立ち向かえるようにすることを目的にしています。再発を防止するためには服薬の継続に加え、家族の協力が大変重要だからです。とくに、激しい躁状態は家族にとっても大きな負担となり、たとえそれが病気によるものだとわかっていたとしても、患者さんに対しマイナスの感情を抱いてしまいがちです。そのような感情は患者さんに伝わって、さらなるストレスが病状の悪化を招く、といった悪循環に陥りがちです。家族療法はこのような悪循環を断ち切るためにも、有効な治療法です。

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