ナルコレプシー
夜はしっかり睡眠がとれており睡眠不足ではないのにも関わらず、昼間に耐えることができない眠気に襲われるのが「ナルコレプシー」です。その眠気は“丸3日間徹夜したあとのような眠気”と表現されるほど強烈で、会議中や商談中など、通常では考えられないシチュエーションにおいてさえも眠り込んでしまいます。周りの人からは日中に眠気に襲われて眠ってしまうため、「怠けている」などの誤解を受けたり、周囲の理解を得られないことがあります。
ナルコレプシーの居眠りは長くても30分以内で、目覚めたあとは一時的にすっきりします。重症例では眠気を感じる前に眠り込み、数秒で目覚めて気づくという睡眠発作の形をとります。大笑いや驚きなどの情動変化をきっかけに、両側姿勢筋の緊張が一過性に消失し、膝がカクンとする、ひどいときにはへたり込んでしまう、あごに力が入らず、ろれつが回らないといった情動脱力発作を示すことがあります。情動脱力発作は覚醒状態で生じ、通常、発作中は周囲の状況を把握しています。また寝入りばなに金縛り(睡眠麻痺)を生じたり、恐ろしい感覚ともに幻覚をみること(入眠時幻覚)があります。この睡眠麻痺や入眠時幻覚は、覚醒とREM睡眠の相互移行を基盤とし、一種の寝ぼけ状態で起こると考えられています。
他の睡眠障害を除外し、十分な睡眠時間を確保したうえで反復睡眠潜時検査(MSLT)を行い、平均睡眠潜時が8分以下と短いこと、入眠時REM睡眠期(SOREMP)が複数回出現することで、ナルコレプシーと診断します。髄液中のオレキシン濃度を測定して、低値であることをもって診断することもあります。
世界的には1000人から2000人に1人にみられ、10歳代で発症することが多い疾患ですが、欧米人と比べて日本人では600人に1人と発症頻度の高いことが知られています。原因としては、自己免疫異常などでオレキシン神経系の機能が低下し、覚醒の維持が困難となる機序が想定されています。
ナルコレプシーの治療は、生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。
まず生活指導によって、しっかりとした睡眠習慣を確立し、毎晩できるだけ同じ時刻に就寝し、同じ時刻に起床するようにします。薬物療法としては、日中の過度の眠気や睡眠発作の治療には、覚醒を促す中枢刺激薬を症状の程度に応じて使用します。
また情動脱力発作を伴う場合や抑うつ状態を合併している場合には抗うつ薬を、注意欠陥多動性障害(ADHD)が背景にある場合はコンサータやストラテラによる治療が有効なことがあります。
また睡眠呼吸障害などの他の睡眠障害を合併することもあるので、これらの疾患の診断、治療も必要になります。
特発性過眠症
発症は10~20歳代で、有病率はナルコレプシーよりやや少ないと推測されています。日中の過度の眠気と居眠りを主症状とします。
居眠りは、1時間以上続き、目覚め後はすっきりと覚醒できずに眠気が持続し、リフレッシュ感が乏しい場合が多いとされます。
夜間睡眠が10時間以上と著しく長い場合もみられます。
他の睡眠障害を除外し、十分な睡眠時間を確保したうえで反復睡眠潜時検査(MSLT)を行い、平均睡眠潜時が8分以下と短いという基準は満たすが、入眠時REM睡眠期(SOREMP)がみられないことが診断基準となっています。
特発性過眠症は頻度が少なく、治療法も十分に研究されていません。しばしば頭痛、起立性低血圧、レイノー現象、頻脈などの自律神経症状を伴います。
治療として、まず睡眠覚醒リズムの異常があれば規則正しい睡眠習慣に戻し、それでも日中残る過度の眠気に対して覚醒効果をもつ精神賦活剤を使用します。
通常の薬剤では効果が不十分なことも多く、海外ではメタアンフェタミンやモダフィニルが使用される場合がありますが、日本では保険適応がありません。注意欠陥多動性障害(ADHD)が背景にある場合にはコンサータやストラテラによる治療が有効なことがあります。
反復性過眠症
非常にまれな疾患で、初発は、ほとんど10歳代で、女性よりも男性で頻度が高いとされています。強い眠気を呈する時期(傾眠期)が3日から3週間持続し、この間は毎日15時間以上、昼夜なく眠り続けます。周囲の人が強く刺激すると一応は目を覚ましますが、表情はボーっとして簡単な応答はするものの口数が少なく、注意の集中と持続が困難で、周囲への関心が乏しく、記銘力も低下しています。不機嫌で強い眠気を訴え、放置するとすぐに眠り込んでしまいます。自然に回復してまったく症状がなくなりますが、その後不定の間隔で傾眠期が繰り返し出現します。病相発現の直前に発熱や心身の過労が見られることがありますが、誘因が必ずしも明確でない場合もあります。
傾眠期に食欲の著しい高進と過食の見られる一群はクライネ・レビン症候群(Kleine-Levin syndrome)と呼ばれています。
病相期が始まると治療は困難なことが多く、むしろ病相を予防するためにリチウムなどによる薬物療法が工夫されています。
*当院では中枢性過眠症(ナルコレプシー,特発性過眠症)の確定診断に必要なPSG+MSLT検査が実施できません。病歴の確認、診察と血液検査、睡眠時無呼吸の検査などにより鑑別を行い、睡眠衛生指導を行っても改善が見られず、必要と判断した場合に、この検査の実施できる医療機関をご紹介しています。
中枢性過眠症の確定診断、特にモディオダールなど中枢刺激薬の初回処方を希望される場合には、PSG+MSLT検査の実施が必須となります。
他の医療機関で確定診断がついて診療情報提供書(紹介状)があり、2回目以降の場合には、当院での処方が可能です。