発達障害

神経発達症(発達障害)

発達の進み方に偏りがあり、周囲からの理解と適切な対応の得られることが望ましい病態です。例えば次のような方は、発達に偏りが大きいために、さまざまな問題が生じてきた可能性があります。

  • 自分は周りの人と違うという感覚が強く、生きづらさをずっと抱えてきた。
  • どこへ行っても人間関係がうまく行かず、職場を転々としている。
  • うつ病と診断されて治療を受けているが、抑うつ状態が治りにくい。
  • 幻聴が聞こえるけれど、統合失調症の幻聴とは違い、過去に受けた傷つく出来事をリアルに再体験している感じがする。

こうした方では、ご本人のもつ個性や特性を理解して、より適切な方法で問題に取り組むことにより、改善することが珍しくありません。
発達障害は特殊な病気や異常ではありません。私たちは誰もが発達障害的な特性を持っています。ただ、その程度や特徴が著しくなく、現在生活している環境ではたまたま問題になっていないと考えたほうが適切です。言い換えれば、社会生活に支障がなければ、発達障害の診断基準に当てはまる特性をもっていても「発達障害」とは診断されません。
最近では、発達障害という言葉は適切ではないとして、「非定型発達」「発達特性」「発達凸凹」と呼ばれることもあります。これに対して発達障害をもたない人は「定型発達(者)」と呼ばれます。
一方で、発達凸凹は才能の宝庫でもあり、歴史上の有名な科学者や芸術家などには、高い割合で発達障害的な特性を持つ人のいることが知られています。高機能な発達障害であるアスペルガー障害は、別名「シリコンバレー症候群」とも呼ばれ、IT産業や大学の研究者にも該当する人が多くみられます。

神経発達症(発達障害)のタイプ

「脳機能の発達が関係している、生まれながらの障害」というのが、神経性発達症(発達障害)の定義です。幼少時から典型的な傾向が見られ、早期に気付かれる人もいれば、周囲から変わった人と思われ、本人も生きづらさを感じながらも、なんとか社会生活を営んでいる人もいます。
神経発達症(発達障害)は大きく次の3つに分類されますが、複数の障害が重なってみられることが多く、障害の程度や年齢、生活環境などによっても症状の現れ方が異なります。大切なことは、親のしつけや教育の問題、本人のわがままではなく、脳機能の障害によるものだと理解することです。周囲が理解し、接し方や環境を調整することで、不足している能力をゆっくり育みながら、ご本人の長所を生かして能力が発揮できるようになります。

自閉症スペクトラム(ASD)

自閉症スペクトラムは、これまでの「広汎性発達障害(PDD)」とほぼ同じ概念であり、「自閉症」、「アスペルガー症候群」、「特定不能の広汎性発達障害」などがこの中に含まれます。
コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動、感覚の過敏さなどが特徴的です。

「自閉症スペクトラム」には次のような症状がみられます

  • 人とのかかわりが苦手
  • 場の空気や状況が読めない
  • 言外に含まれる意味を汲み取れない
  • 刺激に反応しやすい
  • 感情を爆発させやすい(または抑圧しやすい)
  • 予定外のことに臨機応変に対応できない
  • 規則性や秩序に極端にこだわる
  • 知覚が非常に敏感(または鈍感)
  • あいまいさが苦手で白黒つけたがる
  • 身体を使うことが苦手で不器用

注意欠陥多動性障害(ADHD)

「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの要素が見られる神経発達症(発達障害)です。周囲には障害として理解されにくく、粗暴で落ち着きのない人と思われることも多く、大人の場合には、集中力がなく、自己管理ができないという否定的な評価をされてしまいがちです。

「注意欠陥多動性障害」には次のような症状がみられます

  • 長時間じっと座っていられない
  • 気が散りやすく、集中が続かない
  • 今やるべきことと違うことに手を出してしまう
  • 失くし物や忘れ物をしやすい
  • 約束を守れない、間に合わない
  • 事前によく考えて行動できない
  • ケアレスミスが多い
  • 部屋を片付けるのが苦手
  • 思ったことをすぐ口にしてしまう
  • 賭け事やアルコールなどに依存しやすく、衝動買いをしやすい

学習障害(LD)

全体的な知的発達に関しては、特に問題が見られるわけではありませんが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する、または推論する」能力のうち、特定の分野を習得することや使うことに著しい困難を示す神経発達症(発達障害)です。

「学習障害」には次のような症状がみられます

  • 人の注意をうまく理解できず同じ失敗をする
  • 文章のどこを読んでいるのかよくわからなくなる
  • 誤字、脱字やスペルの間違いが多い
  • 電話を聞きながらメモを取れない
  • 会議録やレポートが書けない
  • 漢字を覚えるのも書くのも苦手
  • 文字の形や大きさがバラバラになる
  • 簡単なお釣りの計算や金銭管理ができない

3つの神経発達症(発達障害)の特徴は上記の通りですが、これらの特徴・症状があっても、本人や周囲が困っておらず、問題なく学校生活や社会生活が送れているのであれば、それは「障害」ではなく、「個性」と考えることが望ましいとされています。

当クリニックでの診療

当クリニックでは、基本的に思春期以降の成人の方を対象に神経発達症(発達障害)の診断、治療をしています。症状の現れ方は個人差が大きく、社会性、コミュニケーション、想像力などについて、適応困難の程度を考慮して、治療方針を決定します。

まず、能力の特徴、強みや弱み、性格傾向を理解するために次のような心理検査を行います。これらは医師の診断や治療方針決定の際の参考になると同時に、患者さんがご自身への理解を深め、得意なことを伸ばし、不得意なことについて工夫をしながら生活をするために役立ちます。また、周りの方がよりよいサポート方法を見つけるための参考になります。
【発達や能力に関する検査】
  WAIS-IIIなど
【性格傾向、思考・行動パターン、心理状態、対人関係パターンに関する検査】
  ロールシャッハテスト、TEG-II、バウムテスト、SCT、PFスタディなど

たとえば相手の気持ちを汲み取ることが苦手な自閉症スペクトラムの方が営業職に就くには困難がともないます。しかしデータの分析なら誰よりも根気強く、正確に仕上げられる可能性があります。
注意があちこちに向いてしまい時間管理が苦手な注意欠陥多動性障害の方は、タイマーを活用することなどで社会生活がよりスムーズになることもあります。またスケジュール管理や生活習慣の改善・固定により、ご本人の力を発揮しやすくなります。
学習障害の方では、得意な分野を生かすことができ、苦手な分野の能力を必要としない職種選びにより、ご本人の能力をより発揮できる可能性があります。
このように神経発達症(発達障害)では、周囲の理解や適切な対応によって社会への適応のよくなることが期待できます。そのため当クリニックでは、生活のどういう側面でお困りなのかについて臨床心理士が詳しく伺い、適切な診断を行い、ご本人の特性がプラスに生かされるように、カウンセリングなどを通じて丁寧な解説と支援を行います。
自閉症スペクトラム(ASD) の方では特に、他人の意図を読むこと、自分の気持ちを整理して話すことが苦手な傾向にあります。カウンセリングでは、経験豊富な臨床心理士が安心できる環境で、個別に、ゆっくりと、思いを言葉に変える練習のお手伝いをします。またショートケアのコミュニケーションプログラムでは、コミュニケーションについて同じような悩みを持つ方が、臨床心理士の指導のもと、仲間と共に問題の解決に取り組んでいます。自分だけではないと言う安心感の中で、うまくできる人の技術を学びながら、コミュニケーションの練習ができるというメリットもあります。  ⇒らむず
また、注意欠陥多動性障害(ADHD)の方では環境調整や日常生活で失敗をなくす工夫をすることが重要ですが、症状を和らげる効果のある薬剤が使用できるようになっており、薬で症状を緩和しながら、さまざまな問題に取り組みやすくできる可能性もあります。
成人期の注意欠陥多動性障害(ADHD)で使われる治療薬には、次の2種類があります。

■ストラテラ(アトモキセチン)

ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)です。効果が安定して出るまでに1ヶ月程度かかりますが、24時間効果が持続します。副作用としては食欲不振や便秘、頻脈などがあります。

■コンサータ(メチルフェニデート)

中枢神経を刺激して、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの働きを調節する薬です。飲んで2時間後ぐらいから効果を感じることができ、効果は12時間程度持続します。副作用としては、頭痛・寝つきが悪くなる・食欲不振などの出ることがあります。服用を続けて薬に慣れてきて、副作用が軽減することもあるようです。
小児のADHDの方では、インチュニブという薬が使えますが、現時点では成人での保険適応がありません。
また発達障害傾向を持つ方では睡眠覚醒リズムが乱れやすく、日中の過度の眠気や不眠などの症状を呈することが知られています。また、対人関係ストレスを生じやすく、失敗体験の繰り返しなどにより、二次的にうつ病などの気分障害を発症する方も多くみられます。こうした方にも専門医の立場から適切な治療を行っています。
当院では、こうした治療を行いながら、学校・職場や家庭での様々な困難が、十分な期間改善されているか、治療を終了しても長期的に安定した状況が続けられるかを検討していきます。

心理検査結果の説明

検査結果と今後の工夫などを心理士から詳しく説明しています。
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